UNLIMITED。

昔々に書きためたV6のオハナシ。妄想空想ゴト。

嫁に来い

 

嫁に来い

 

 


鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのは誰?
      それは・・・・・白雪姫さまでございます・・・・・・・・・

 

6月の大安吉日。
俺は長野くんと一緒にスーツ姿で、坂本くんちの店先に立ってた。

「相変わらず、プチジャニーズショップだな・・・。」

長野くんがポツリと言う。

「るせぇな。お袋の趣味なんだからしょうがねぇだろ。」

坂本くんはちょっぴりふてくされたように言い返す。
ま、坂本くんのお母さんが坂本くんの大ファンだっていうのは誰でも知ってるし。
だから店がこんなになっちゃってるっていうのも・・知ってるしね。


ところで、何で俺達がここ『坂本商店』に居るかといえば。
本日は坂本くんの幼なじみ”雪乃さん”の結婚式だからなのです。
雪乃さんとは俺も長野くんも仲良くしてもらってたから、それでお友達代表で参列って訳。

「でもさぁ、いきなりでびっくりしたよ俺。雪乃さん結婚って。」
「あ、井ノ原も?実はね、俺も俺も。・・ところで坂本くんは知ってたの?」
「・・・ん?」

俺と長野くんが突然言い出した雪乃さんの結婚話。
坂本くんは、少し唇を尖らせて困ったような顔をして笑いながら言った。

「実はさ・・・俺も知ったの最近。」

そして、「ちょっとタバコ取って来る。」って言いながら店の奥へと入っていった。
その場に残された俺と長野くんは、どちらからともなく顔を見合わせて苦笑した。

「なぁ、・・今の禁句だった?」

初めに口を開いたのは長野くんだった。

「うーん・・かもね。」
「坂本くん、知らなかったんだ?俺てっきり雪乃ちゃんは坂本くんに相談してると思ってた。」
「俺も・・。雪乃さん・・言ってなかったんだね。」
「・・うん。」
「つーか、もしかしたら言えなかったのかもね。」
「そうだな。」
「ねぇ、長野くん。」
「うん?」
「俺さぁ、雪乃さんは絶対坂本くんを好きなんだと思ってたんだよねぇ。」
「・・・・・・・。」
「でさ、坂本くんもさぁ。・・だからさ、なんか・・やりきれない。違うだろ?ってさぁ。」

長野くんは何も言わずに俺の背中をポンポンって軽く叩いた。
そして、「俺もだよ。」ってやさしい顔して笑ってた。

・・・だよね。そう思うよね?
だってさ、ふたりは一緒に居る時ホントに自然でさ。俺が見てたって「いいなぁ。」って思うほどで。
絶対にいつか結婚するんだろうなって思ってたんだよ。
なのにさぁ・・・。結婚って。雪乃さん、他の人と結婚って・・そりゃないよ。

俺は妙にへこんだ気分になった。そして、思わず地面にしゃがみこんでうつむいてしまった。

 

「井ノ原。」

・・・・へ?

「井ノ原って。」

・・・ん?

しゃがみこみ、うつむいてる俺に向かって、長野くんが呼んでる声が聞こえた。

「・・・なにぃ?」

ダルそうに返事して顔を上げると、そこには長野くんの顔ともう一個、違う顔が笑ってた。

「・・・へっっ?!」

俺は思わず直立不動になってしまう。

「こんにちは。久しぶりだね、元気だった?」

そんな俺に、”違う顔の主”は笑顔で話しかける。

「う、うん。・・・元気・・。」

意味もなく緊張してる俺。だってさ、予想外じゃん。こんな日のこんな時間に、しかも
こんな場所に現れるなんて思ってもみないじゃん。
・・・な、な、な・・何で???

「雪乃ちゃん、久しぶりにここに寄りたくなったんだって。」

動揺してる俺に長野くんは落ち着き払って説明してくれた。

「へ、へぇ・・。」
「うん、そうなの。結婚したらさ旦那の都合で仙台行くしね。来たくても来れないでしょ?」
「う、うん。」
「だからね、ちゃんと覚えておこうと思ってね。私が育った街をね。」

そう言うと、雪乃さんは坂本商店の周りをグルっと見渡した。
その顔には、少しだけ切ないような表情が浮かんでいるように思えたのは俺だけ・・・?
長野くんは・・・?

長野くんは黙って雪乃さんの背中を眺めてた。
その頭に俺と同じことが浮かんでるかどうかは分からなかったけど・・・。

「ねぇ、昌行は?」

雪乃さんは、不意に思い出したように俺達に尋ねる。
・・・いや、思い出したんじゃなくて、初めから坂本くんに会いにきたのかもしれない。

「ん?タバコ取りに奥行ったけど・・・遅いね。」

長野くんが答える。

「呼んでみれば?」

俺が言う。
すると、雪乃さんは「そうだね。」って笑って大きな声で坂本くんを呼んだ。

「昌行~!!」

「昌行!居るなら出てきなさいよ~!!」


雪乃さんの声が止むか止まないかのうちに、奥からバタバタバタって走って来る足音が聞こえてきた。
坂本くんが戻ってきたみたいだ。

「ゆ、雪乃っ?!・・おまっ、おまえなんで居んだっ?!」

そして、雪乃さんの顔を見るなり”仰天”って顔で叫んだ。

「ん?・・嫁行く前にさ、坂本商店のトマト食べたいって思ってさ。」

動揺してる坂本くんをよそに、雪乃さんはサラッと答える。
・・・つーか、・・・トマト・・・?

「トマト?んなもん、日本全国どこにだって売ってんだろ?」
「・・・そだね。だけどさ、私はここのが食べたかったの。どうしても。」
「意味わかんねぇな・・。んなことより、式の時間迫ってんだろ?早く行けよ。」
「言われなくたって行くわよ・・・。だけどトマト先にちょうだい。」
「んなもん、式場に持ってってやるよ。タクシー呼ぶから早く行け。」

坂本くんは、雪乃さんの式の時間を気にしてるみたいで、仕切りにそれを口にする。
でも当の雪乃さんは知ったこっちゃないふうで。
そんな坂本くんの態度に、少しだけ悲しい顔をした。

「・・・ダメなのよ。」
「何が?」
「今じゃなきゃダメなの!ここじゃなきゃダメなの!」

そして、今にも泣き出さんばかりの顔で、坂本くんに食って掛かって行った。

「・・・・・おい・・。」

坂本くんはあまりに真剣な雪乃さんに驚いてるようだった。
・・・どうしてそんなにトマトにこだわってるんだろう・・・?

「分かったよ。」

坂本くんは店の奥から真っ赤なおいしそうなトマトをひとつ持ってきて雪乃さんに渡した。

「ありがと。」

雪乃さんはホントに嬉しそうに笑った。

「ねぇ、昌行。覚えてない?」

そして、ゆっくりと静かな声で話し始めた。

「ん?何を?」
「幼稚園の頃にさ、劇で白雪姫やることになってさ・・昌行が王子様で・・。」
「・・うーん。」
「思い出した?」
「あぁ。なんとなく。」
「・・昌行は王子様だったんだけど私は白雪姫になれなくって。」
「・・そうだっけ?」
「そうよ。一番可愛かったユリちゃんがなったの。んで、私はお妃様よ?」
「うはは。そういや、そんなことあったな。」
「笑わないでよ。・・でね、私がうちに帰ってきてまでもずっと泣いてるからって昌行が言ってくれたの。」
「・・・俺が?」
「そう。ここでふたりで白雪姫やろうよ。って。」
「・・へぇ。言ったっけ・・俺?」
「うん。でもね、林檎はなくて。」
「あぁ、夏だったもんな。」
「・・だから代わりにトマトでやったの。」
「・・・あぁ。」
「思い出した?白雪姫ならぬトマト姫様のお話。」

坂本くんは、嬉しそうにトマトをかじる雪乃さんの顔を優しく見つめてた。

やっぱり、雪乃さんは坂本くんのことが好きなんだ。
子供の頃の思い出がこんなにも鮮やかなんだ。絶対にそうだ。
もう離れ離れになってしまう大好きな人との一番大切な想い出をまた叶えにここに来たんだ。
・・・坂本くんは?坂本くんはどうなの?
今きっと雪乃さんは坂本くんに止めて欲しいって思ってるはずだよ?
いいの?このまま・・雪乃さんが結婚しちゃってもいいの?


「おまえ、そろそろ時間あぶねぇんじゃねぇの?」

だけど、俺の期待をよそに、坂本くんは雪乃さんにこう言ったんだ。

「・・あぁ、うん。行かなくちゃ。」
「タクシー呼ぶか?」
「ううん、いい。電車の方が確実だから。」
「そっか。」
「うん。」
「んじゃ、また式場でな?」
「うん。待ってる。」

雪乃さんは、俺と長野くんにも「また後で。」って笑ってこの場を後にした。


俺はなんとなくだけどイライラしてきてた。
だって、坂本くんは・・・。気付いてるはずなのに、雪乃さんの気持ち。なのに・・。

「さかも・・。」

俺は雪乃さんが帰るまでの間、ずっと我慢してたことをぶちまけてやろうとした。
・・が。
突然それは俺の横に居た長野くんによって遮られてしまった。
長野くんは、俺の腕を掴みながら首を軽く横に振ってた。
それは「やめとけ。」って俺に言ってるみたいで、なんだか悲しかったんだ。

「どうしてだよ?」

俺は隣りの長野くんに小声で尋ねた。
長野くんは俺の腕を掴んでた手を離しながら言った。

「俺達にはどうすることもできないよ。・・二人の問題だから。」

長野くんの声は少しだけかすれてた。
たぶんそれは、長野くんも俺と同じ気持ちでいっぱいだっていうことを現わしてるんだと思う。
たぶん、俺以上に悲しい気持ちでいっぱいなんだって・・・。

 

 

お昼過ぎ。俺達は揃って式場へと向かった。
周りがパニックにならないようにっていう雪乃さんの計らいで、俺達だけの控え室も用意されてた。

だけど・・・。
その行為が今の俺達の沈んだ空気をいっそう重たくしたような気がした。
無言の控え室。
きっと口を開いたら俺は、坂本くんに対して愚痴を言ってしまいそうで怖かったから。
長野くんもそうなのかもしれない。
坂本くんは坂本くんで、今までの思い出やらを噛み締めてるのかもしれないし・・・。

 

PM3:00。式が始まる。
俺達はチャペルの一番隅っこの席に3人並んで立っていた。
ヴァージンロードを歩いていく雪乃さんのドレス姿は、とても綺麗で、まるでお姫様みたいだった。
・・・雪乃さん、今じゃトマト姫なんかじゃなくって正真正銘の白雪姫だね・・・。

 

だけど、雪乃さんがヴァージンロードを歩き終わりかけた時、俺の脳裏にまたもやさっきの、
坂本くんちの前での二人の様子が浮かんできて・・・。
俺は、何気に左隣りの坂本くんの顔をチラッと覗き見た。
・・・フツー。どうってことないって顔してやがる。
なんだよ。俺がこんなに心配してるっていうのに。どうってことないってぇのかよ・・・。


・・・ん?


・・・・・・・坂本くん・・・。


ちげぇじゃん。全然どうってことなんかなくねぇじゃん。ばかやろう。
さっさと素直になれってんだ。


坂本くんは、顔こそはどうってことないって顔してたけど、拳をぎゅっと握り締めてた。
もう、爪が手のひらに食い込んじゃうんじゃないかってくらいに。
やっぱり、坂本くんだって雪乃さんのこと・・・。

 

「あぁっっ!!!待って!!」

坂本くんの気持ちが分かった途端、俺は思わず叫んでた。
一斉に周りの人たちが俺を振りかえる。
・・・・・・げ。
坂本くんも「おまえ何やってんだよ?!」って顔して俺を見てる。
・・長野くんは・・・?
あらら。右手で顔を覆ってた・・・。

だってさ、だってさ、今しかないじゃん。新郎のところに行っちゃったら・・もうダメじゃん。
だからさぁ・・・。


「・・あっ・・あの・・。」

とはいえ、その先に何を言えば良いのかなんて分かるはずもなく、俺はただアタフタしてるだけだった。
・・・坂本くぅん・・。
ってすがるように坂本くんの方を見てみたら、知らん振りしてるし。
・・・な、長野くぅん・・・。
って長野くんを頼ってみようとしたら、あっちの方向いちゃってた・・・。あぁぁぁ・・・。

ど、どうしよう。ここまできたら言っちゃうしかない?だけど・・・。
長野くんが『二人の問題』って言ってたよね。・・・俺ってば・・・バカ・・・。

 

「雪乃ちゃん、向かう場所間違ってない?そっちじゃないよ?」


・・・へっっ??

そんなアタフタな俺の横から、今度ははっきりと長野くんの声が聞こえてきた。


「こっちでしょ。」

そんでもって、長野くんは俺の隣りに立つ坂本くんのほうを指差した。


・・・えぇぇぇぇっっ??!


「な、長野くん・・・。」

俺は長野くんの方を見る。長野くんはニッと笑って俺に向かって軽くウィンクした。

 

雪乃さんは呆然としてこっちを見てた。
それは、坂本くんも同じこと。坂本くんは俺達と雪乃さんを交互に見てた。

「・・・おまえら・・。」

そして、何とも言えない表情で俺達に向かってひとこと。
それに対して俺達はといえば。

「坂本くん、今しかないんじゃない?」
「そうそう。せっかく井ノ原と俺がきっかけ与えたんだし・・ね?」

坂本くんは小さくため息をついて「・・・まったく。」って頭を掻いた。
そして、最後に小さな声で俺達に言ったんだ。


「おまえらにはかなわねぇや。」

 

雪乃さんは相変わらず身動き出来ないままこっちを見てた。
坂本くんは、そんな雪乃さんに向かって叫んだ。


「雪乃!!!・・・来い!!!」


そして、右手を彼女に向かって伸ばした。


雪乃さんはといえば・・・・。
ドレスの裾を軽く持ち上げて、坂本くんのほうへと駆け寄ってきて
差し出されてる坂本くんの右手を取ったんだ。
その顔は涙にぬれてたけど、さっきヴァージンロード歩いてた時よりもずっとずっと綺麗だった。


「行くぞ。」
「うん。」

ふたりは手に手を取って駆け出した。まるで映画のワンシーンみたいに。


「うわぁ、すげぇ。」

俺はひとり呟く。

「ははは。やっちゃったな、坂本くん。」

長野くんが隣りで笑う。


良かったね、坂本くん。良かったね、雪乃さん。ほんと、良かったね。
つーか、もうどこへでも行っちゃえぇ~~!!

 

「つーか、井ノ原。俺達も逃げないとやばくねぇか?」
「・・・へ?」


長野くんの声に振り返ってみれば、周りの参列者の方々の視線が突き刺さる。

「やべぇ・・・。」
「あぁ・・・。」
「行く?長野くん・・?」
「おぉ。」

「「・・っせーのっ!!」」


俺達はチャペルから逃げ出すように一斉に走り出した。

 

 

俺は走りながら思ったんだ。
どんなに綺麗な白雪姫だって、叶わないもんがあるって。
それは、大好きな人と一緒に居られる喜びに満ちてる女の人の笑顔。
だってさ、雪乃さんの顔は、今まで俺が知ってる中で一番の笑顔だったんだ。
それはきっと、ずっと、ずっと待ってた坂本くんと一緒に居られるっていう喜びがもたらした最高の笑顔だね。


大好きな人と一緒なら、トマト姫だって白雪姫以上に綺麗になれちゃうんだ。

 

 

 

鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのは誰?
      それは・・・・・トマト姫様でございます・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

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トニセン3人が登場しますが基本は坂本くん主役。

HPで公開してる時はお題で書いたりしてたので、タイトルがこんななんです・・・

新しいタイトルを付けようかとも思ったけど、あえてのそのままで!