UNLIMITED。

昔々に書きためたV6のオハナシ。妄想空想ゴト。

三日月の船

 

三日月の船

 

 

 

 

 

 

運命の出逢いだって知ってた?俺とおまえだからなんだって・・・・・知ってた?

 

 

 

”カツカツカツカツカツカツカツカツ・・・・・”


あいつが来た。
急ぎ足で駆けて来るのが分かる。


「ごーめん!仕事・・おわんなかったぁ・・・。」

少しだけ切れた息で困った顔をしながら言う。

「はは。いいって。俺もさ実は今来たばっか。」
「・・ほんとに?」
「あぁ、ほんと。」


ほんとはさ、1時間以上も前に着いてたけど。
でもさ、そんなことわざわざ言うことじゃないじゃん?俺だってよくあることだ。
こいつのことしょっちゅう待たせてるしな。

「よかったぁ。」

ぱぁっと満面の笑みを浮かべる。
ははは、単純な奴。でもそこがカワイイとこだったりするんだけどな。

「だけどさ、よくこんな時間にフリーになれたね?」
「うーん、たまにはな。毎日毎日深夜じゃ持たないっしょ。」
「・・・ていうか、仕事減ったわけ?」
「・・ってオイ。そういうリアルな突っ込みはやめろ。ちげぇよ。」
「あはははは。冗談だってば。・・イノ学校もあるもんね。」
「そうだよ。」

相変わらずこいつは、笑顔でキツイ突っ込みをいれやがる。
まるでうちのメンバーの誰かさんみたいじゃねぇか。ま、その『誰かさん』のファンなんだから仕方ないって言えば仕方ねぇか。

 

今日は久しぶりに仕事が早く片付いた。
メンバーみんなで焼き肉行くか?って話にもなったけど、俺はこいつを選んでみた。
まぁ、これまでだいぶ寂しい思いさせてきたからっていうのもあるしさ。
メンバーにはかなり冷やかされたけど・・特にカミセン・・・。
でも、坂本くんも、長野くんも「楽しんでこいよ。」って言ってくれたしさ。
うん、心置きなく楽しむよ。


「ねぇ、イノ?」
「あ?」
「これから・・・何処行くの?」
「うーん・・・とりあえず・・飯でも食うか?」
「あ、うんいいね。食う食う。お腹すいちゃった、私。」
「オッケー、了解。」


俺達は、待ち合わせた海辺の公園から、少し離れたところにあるレストランへと向かうことに
こいつの提案で決めた。
なんだかよくわかんねぇけど、そこ長野くんのお気に入りの店らしい。
・・・つーか、何でおまえが知ってんだ???・・・・・微妙。

 

”カツカツカツカツカツカツカツカツ・・・・”

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

”カツカツカツカツカツカツカツカツ・・・・”


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


つーかさ、これさ・・この音さ・・・・つーかさ・・・・なんかムカツク・・・・・。

 

「なぁ。」
「ん?」
「それ・・・。」
「何?」
「その靴。」
「何?・・・あ、いいでしょ?おニューなんだよねぇ。カワイイ??」
「つーか、うるせぇ。」
「へ?」
「歩くたんびうるせぇんだよ・・それ・・。」
「・・・・・・どういう意味よ?」
「カツカツカツカツ。さ・・・なんだか癇にさわってくる。」
「・・・っ・・な・・。」


あ、怒った。
一瞬にして表情が変わったのが、あんまり敏感じゃない俺にさえ分かった。


「そ・・そういう言い方はないじゃん?!」
「だってそうなんだから仕方ねぇじゃん。俺が厚底嫌いなの知ってんだろ?」
「し、知ってるけど、・・だけど、私は・・私だって好きで履いてるんじゃないんだから!」
「・・・つーかさ、だったら履かなきゃいいじゃん。」
「仕方ないでしょ!!!」
「・・・・・・・そんな怒んなって。」
「怒るようなこと言ったのは誰よっっ!!!」


『癇にさわる。』なんて言ってはみたものの、気持ちは分からないでもない。
こいつの身長は小さい。自称150cmだけど、俺からしてみたらそんなにはねぇだろ。
見た目からして・・・145くらいか?
174cmの俺との差は小さく見積もっても20cm以上もある。
それがどうにもイヤみたいだ。周りの目を気にしてるみたいだ。
俺はそんなのどうでもいいって何度も言ってんのに。まるで聞こうとしねぇしさ。


仕方ねぇな・・・・・。

 

「なぁ。」
「何よっ!」
「おい、ちょっとは落ちつけ。」
「落ちついてるわよっ!」
「・・・・・・・・あ、そ。」
「落ちついてるわよ。」
「だったらいいけどな。」
「いいならいいじゃない。」


口が減らない奴だな、まったく。
ほんと、仕方ねぇ奴・・・・・・・・・・・・・・・。


「なぁ。」
「何よ。」
「あれ見てみろよ。」
「どれよ?」
「あれ。」

俺は夜空に浮かぶ黄色い”三日月”を指差した。

「月?」
「そ。三日月。」
「それがどうしたってのよ。」
「ん?・・あれさ、船だって知ってた?」
「はぁぁ??!」

こいつは俺のことを”バカじゃない?!”ってな顔してみやがった。
失礼な奴だな。

「船なんだよ。ま、言い伝えの中だけでだけどな。」
「言い伝え?」
「そ。昔さ、ある国で有名だった話。」
「へぇ・・・・。」

こいつは俺の言葉に視線を三日月へと移す。俺も同じ方を見ながら続けた。


「そこの国は国民全員が小さくて、ま、小人まではいかねぇけど小さい人の国だったんだ。」
「うん。」
「で、ある日そこの国の姫が、恋をしたんだって。だけど、それがなんと困ったことに・・。」
「何よ?」
「うん。大きな人の国の王子様だったらしい。」
「は?」
「だから、簡単に言うと巨人?ま、決まったように王様達は反対。釣り合わないからって。」
「そりゃ、そうでしょうね。」
「うん。だけど、ふたりは諦めなかった。」
「で?」
「で、ふたりは逃げることにしたんだ。」
「へぇ、駆け落ちってやつだ?」
「そ。だけど、困ったことに国の周りは大きな海。国は島だったんだな。」
「うーん・・・。」
「逃げられない。さぁ、困った。どうする?」
「わかんない。」
「なんと、そこへ三日月の精がやってきた。そして、ふたりのために船を貸してくれた。」
「船?」
「そ。三日月っていう船。」
「だけどさ、三日月って・・・傾いてない?乗れなくない?」
「うん。ところがね、ふたりはどんなだった?おまえ、覚えてる?」
「・・・・・・・小さい国の姫と大きい国の王子。」
「そう。だから全然問題なかったんだ。」
「どういうこと?」
「下に下がった方に姫が、上がった方に王子が乗ったんだ。そしたら・・・?」
「あ!」
「だろ?」
「重い方が下がって丁度よくなるんだ?」
「大正解。」
「で、ふたりは?」
「もちろん逃げられたよ。」
「へぇ・・・・。」


こいつはなんだか幸せそうな顔して三日月を見上げてた。
つーか、俺がこの話をした意図は・・・こいつには分かったんだろうか???


「なぁ。」
「何?」
「もしかしたらさ、俺らってそのふたりの生まれ変わりじゃねぇ?」
「・・・・は?」
「な?そう思わねぇ??」
「・・・・・・・・・・イノ・・・・・・バカ?・・・」


・・・・・・・・。

そうですよ。バカですよ。
つーか、俺がどんなにおまえに気を使ったかわかんねぇのか???
あの”言い伝え”だって・・・あれだってよ・・・俺の作り話なんだからな?!
知ってて俺のことバカにしてんのかよ。だったらいい度胸だよ。・・・・このやろう。

 

「なぁ?」
「うん?」
「だからさ、気にすんな。」
「・・・何を?」
「釣り合わないとか釣り合うとか・・・そういうの。気にすんな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


ま、はっきり言ってそこまで言っても通じたかどうかは、ある意味・・不明。
でも、通じたって、俺の気持ちは通じたって思ってることにしよう。

 


だけどあいつは、そんな俺の期待をよそにさっさと先へと歩いて行ってしまった。
相変わらず足音は”カツカツカツカツ・・・・”
全然通じてねぇじゃん・・・。

 

「ねぇ、イノ!」


あいつが振りかえって俺の名を呼んだ。


「あ?」

「新しい靴買ってくれる?」

「は?」

「こんなんじゃなくって、・・・スニーカーみたいなやつ。」

「へ?」

「だから、イノが履いてるみたいなスニーカー!」

「・・・・・・・・・・・・・・。」


そう言って、あいつは履いてた厚底の靴を脱ぎ始めた。


「・・・っ・・おい!」

駆け寄る俺。

「へへへへ。」

靴を脱ぎながら笑うあいつ。


「何やってんだよ?」
「靴脱いでんの。」
「そんなん見りゃわかるって。何で脱いでんだよ?」
「だって、イノ嫌いなんでしょ?」
「あぁ。」
「こういう靴の足音聞いてると癇にさわるんでしょ?」
「・・・あぁ。」
「だからよ。」
「・・・・・・・・・・・。」


通じたみたいだ。俺の気持ち。
背の高さなんて、釣り合いなんて関係ないんだってこと。
要は気持ちなんだってこと。


「ねぇ、イノ。」
「あ?」
「あの話・・・いいね。」
「・・・・そうか?単なるどっかの言い伝えだぞ?」
「・・・うん。だけど・・いいね。」
「ふぅん・・そっか。」

 

ニコッと笑ってあいつは靴下のまま歩き出した。
おいおい・・・。それはちょっと・・・いくらなんでもやりすぎなんじゃねぇの??

 

俺は小走りに後を追う。

 

「イノ。」

あいつが、隣りに並びかけた俺に何やら笑顔で話しかけてきた。

「あん?」
「結構才能あるね。」
「あ?」
「イノってお話作る才能あるんだね。」


・・・・・はっっ?????い、今何て????


「さっきの話・・・私のために作ったんでしょ?」


・・・・・・・・・バ・・・バレてるぞ。


「イノにしてはやるじゃない。なかなか感動したわよ。」

 


あぁ、バレてないって思ってたのは俺だけか。
やっぱ、世の中そんなに簡単に騙されてくれるやつばっかじゃねぇよな。
特にこいつの場合は尚更だな・・・・・・。

 

だけど・・・・ま、いいか。

 

 

 


運命だからって知ってた?俺とおまえだからだって知ってた?
おまえが小さいのは、俺が大きいからなんだって・・・・・・・・・・・・・・・知ってた?

 


 

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イノッチでした。

このお話の中のイノッチは高校生ですね^^なんだか懐かしいなぁと思ったりしました。

彼女が小さくて厚底を履いてるってのは、当時の職場の同僚さんで150センチ無い方が毎日厚底履いてたのがモデルです。

ちなみに筆者は165センチなので、その昔厚底が流行ってた頃に、履いたら駅で男の人に「デカイ」的なことを後ろで言われてるのを聞いて履くのを辞めました。

 

お話の中でイノッチが語ってる言い伝え。

私が全部考えた妄想です(笑)