UNLIMITED。

昔々に書きためたV6のオハナシ。妄想空想ゴト。

翼在りし者たち【Ⅳ】

 

このお話は、数話続く長編です。

(私が書いたその他の長編に比べると比較的短く中編程度ですが)

公開当時はイノッチのお誕生日記念作でした。

 

そして、今までの恋愛ものとは少し離れて現実には起こり得ないことがメインになったお話です。

イノッチのお誕生日記念だったので主人公はイノッチ。

そのイノッチと関わるキャラクターにカミセン。

でも、カミセンはカミセンだけどカミセンではありません。

(最終的にはメンバー全員登場します。)

 

テーマは「絆」です。

 

興味を持って頂けましたら、幸いです^^

今回は最終話になります。

 

 

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Happy Birthday イノッチ。

 

5月17日。

 

 

お誕生日おめでとうイノッチ。

 

96年から今までイノッチにはたくさんの笑顔を貰いました。

本当にありがとう。

 

そして、これからもよろしくね。

 

 

そんなイノッチのお誕生日を記念して、

以前もイノッチのお誕生日記念に公開したお話である、「翼在りし者たち」の最終話を更新いたします。

 

 

Happy Birthday YOSHIHIKO INOHARA ♥

 

 

TWO HEARTS

 

TWO HEARTS

 

 

 

 

好きって言わない彼。
「一緒にいると落ち付く。」って言葉の中にときめきはあるの?
好きっていう気持ちは・・・・・ある・・・・の?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 


ある日の昼下がり。

>今から行く。

携帯に突然届いた剛からのメッセージ。
思いも寄らない出来事に、あたしの『ここ』は一気に鼓動が加速した。
だって、1ヶ月ぶりだったから。
剛に会うのは、前に会った日から数えて今日でちょうど1ヶ月。

嬉しい。嬉しい。嬉しい。

訳もなく部屋の中を行ったり来たりしてみた。
そして、いつものように冷蔵庫の中に剛の好きなコーラがあったかどうかもチェックした。
ポテトチップスもね。

なんだか落ち付かない。
「早く来てよ。」って、あたしの『ここ』が叫んでる。ドキドキしてる。そわそわしてる・・・・。

 


待つこと1時間後。


”♪♪♪”


玄関のチャイムが3回音を立てた。
剛が来たってこと。3回チャイムを鳴らすのは剛だっていう合図。
あたしは一目散に玄関へと走り、そしてそのドアを勢いよく開けた。

「よう。」

剛。1ヶ月ぶりの剛が立ってる。

「うん。」

微妙に緊張してるあたしがいる。

だけど・・・そんなあたしの目の前で、剛は何食わぬ態度でスニーカーを脱ぎ始める。
久しぶりなのに、挨拶は・・「よう。」でお終い??
もう少し言う言葉はない訳?「久しぶり。」とか「元気だったか?」とか・・・・・・・。
なんとなく、拍子抜け。
別に剛は久しぶりに会ったからっていって何が変わるわけじゃない人だっていうのは
容易に想像できたりはしてたけど。
でも、やっぱり・・・たまには予想を裏切った態度に出てくれたってって思ってしまう。
しかも、スニーカーを脱ぎ終わったら、あっさりと部屋の中へと直行した。
まるで、自分ちに帰ってきたみたいな感じで・・・。

 

「はぁ。」

ドサッとソファに寝転ぶと伸びをしながら、剛は大きくため息をついた。
そして、少し背中を丸めながら右腕を枕にしてテレビの方を見る。
その後といえば、テレビのスイッチを入れてチャンネルをピコピコピコ・・・・・。
これは剛のお決まりのパターン。
あたしのソファの上でうだうだしてんのは、いつもと同じ剛のパターン。
ある意味、予想を裏切らない奴・・・。

あたしは、剛が寝転ぶソファのそばに静かに腰をおろし、その背中をボーっと眺めた。

だけどさ、同じ部屋には久しぶりに会った彼女がいるっていうのに
ソファでうだうだしちゃうわけ?それじゃまるで30年も連れ添った夫婦みたいじゃない。
そこに愛はあるのか??
いつだったか「落ち付くんだよ。」って言ってたけど・・・そこにはときめきはあんの?


窓から差し込む午後の日差しが、明るく染めた剛の髪と
その短く切った髪の隙間から覗く左耳のピアスにキラキラと反射する。
あたしの『ここ』はそんな小さなことにもドキドキしてるっていうのに。ときめいてんのに。

 


「なぁ。」

そんな感じで1時間が経過しかけた頃、モソモソっと剛は起き上がってあたしを呼んだ。

「な、何っ??」

突然過ぎてびっくりした。変に声が裏返ったりした。
やっぱりあたしと話したいって思ってくれたりしちゃったの??テレビよりあたしって。


「コーラある?」

・・・・・・・・・・・・。

剛は剛。
ことごとくあたしの期待を裏切ってくれる。予想は裏切らないくせに。

「ある・・けど?」

「くれ。」

容易に想像できたわよ・・・このセリフ。
なんだか、あたし亭主関白の夫に我慢しながら連れ添ってる妻みたいじゃない・・・?


剛はといえば、あたしが渡したコーラをおいしそうにゴクゴク飲んで
またソファへと倒れこんだ。

あたしは何なんだ?
剛の『そこ』には愛はないの?ときめきはないの??あたしの『ここ』はこんなに・・・。
話したいこといっぱいあったんだよ?
会社であった嫌なこととか、聞いて欲しかったんだよ?
剛はなかったの?
あたしに聞いてほしかったこと。嬉しかったことも、嫌だったことも・・・愚痴りたかったことも
剛はなかったの・・・?

剛はあんまり多くは語らない人だって分かってるけど、だけどこんな日は
久しぶりに会った日くらいは、ちょっとはあたしの話聞いてくれたっていいじゃない。
剛のこと話してくれたっていいじゃない・・・・。


なんだか無性に寂しくなった。

 

 

好きって言葉だけじゃ愛の深さなんて計れない。そんなのは知ってるけど
だけど、時には言って欲しいこともあるの。
この寂しい気持ちを、不安な気持ちを拭い去るためにも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

あたし、この1ヶ月ずいぶん我慢してたかもしれない。
剛は忙しい人だって分かってたから、そんなの付き合うって決めた時から分かってたから
別にワガママ言うつもりはなかったし。
でも、我慢してた。寂しいのに・・・・寂しいって言えなかった。
会えなくて不安な時も、「好きだ。」って言って欲しかった時も、剛に何も言えなかった。
嫌われたくなかったから。迷惑だって思われたくなかったから。
だけど、だけどね、やっぱり言って欲しい時もあるよ。
「好きだ。」って言って欲しい時もあるよ。
だって・・・考えてみたら、あたし剛から「好きだ。」って言われたことない。
付き合い始めてからずっと、「好きだ。」って言われたことないんだもん・・・・・・・・・・・。

 

「ねぇ、剛?」

「・・・あん?」

剛はソファに寝転んだまま、あたしの方を振りかえる。
その顔からは、どこか”めんどくせぇな。”って気持ちが読み取れる。


「・・・・・・あたしのこと、好き?」

「・・は・・・あっっ・・??!!」

思いも寄らなかったのだろう。あたしの言葉に、剛はガバっと跳ね起きた。
そして、目を丸くしてじっとあたしの方を見据えてた。


「・・っな、なに言ってんだ?おまえ?」

動揺してるのが、ありありと分かる。
そりゃ驚くわよね?今までのあたしじゃ絶対に言わないセリフだもんね。


「何って・・・好きかどうか聞いてるの。」
「んな・・、んなの当たりめーだろ。」
「うそ。」
「うそ。って何だよ?じゃなきゃこんなとこ来ねーよ。」
「こんなとこって何よ。・・・別に頼んでないもん・・。」
「あん!?・・おめー・・・ムカツク・・。」
「剛だってムカツクよ。・・・・・・・・好きって言わないし。」
「・・な、そんなんいちいち言う必要なんてねーんだよ。」
「あるわよ。言って欲しい時だってあるの。」
「わかんねぇ・・。」
「女にはそういう時があるの!・・だから言ってよ。好きなら言ってよ。」
「やだね。」
「何でよ?・・じゃ、好きじゃないんだ?」
「・・な訳ねーだろ。」
「じゃ言ってよ。」
「ぜってーやだね。」
「言ってよ。」
「うっせーな。やだって言ってんだろ?」
「言って。」
「・・・うぜぇ。」
「何でよ?・・・・言ってよ。」
「・・めんどくせぇ。」
「・・・・・・・・・ひどい・・・・。」


喉の奥が熱くなってきた。涙が溢れそうになる。
『めんどくせぇ。』なんて・・・ひどいよ。ひどすぎるよ・・・・。


「お・・おい?!・・・・おまっ・・泣くなよ?!」

剛は動揺してる。
何より泣かれるのが苦手だから、それも仕方ない。今までは我慢してた、あたし。
だけど・・・・・この涙は・・・・・・・あたしにだって・・・・止められない・・・・・・。


「・・・・・ったよ。」
「・・・え・・・・・?」
「わかったよ。言やーいいんだろ?言やーよ。」
「・・・・・・・・言ってくれんの・・・・・?」
「おまえが言えっつったんだろうが?」
「・・・・・・・・うん・・。」
「1回しか言わねーぞ?」
「・・・うん。」


剛は覚悟を決めたかのように、大きく息を吸い込んで言った。

 


「アイラブユー。」

 

そして、ソファに再び倒れこみ、お決まりの格好でテレビを見始めた。

 

・・・・・はっ?????

い、今、剛はなんて言った?????え?確か・・・・・・・・・・・・
「アイラブユー。」って・・・・言わなかった?????


素直じゃない。ホントに素直じゃない。ひねくれ者。
ていうか、あんた何人よ?
好きなら好きって素直に言えばいいじゃない。「アイラブユー。」より文字数少ないじゃない。
まったく・・・。


あたしは小さくため息をついて、寝転ぶ剛の背中を眺めた。
華奢なのに、どこか大きく感じるその背中。
あたしの『ここ』は、またドキドキを始める。ときめいてる。
そんなに小さなことなのに、いまだに慣れない。目が離せない。


窓から差し込む午後の日差しが、明るく染めた剛の髪と
その短く切った髪の隙間から覗く左耳のピアスにキラキラと反射する。

 

あ・・・れ?


ひとつ気付いた。今気付いた。
短く切った髪の隙間から覗く左耳・・・・真っ赤だ・・・・・。


剛・・・・・。

 

ごめん。あたし・・嫌な女だったね。疑ったりなんかして。
剛はあたしのことなんか、好きじゃないんじゃないかって思ったりなんかして。

剛はひねくれてるんじゃない。ただ照れ屋なだけ。
好きで「アイラブユー。」なんて言ったんじゃない。照れて「好きだ。」って言えなかっただけ。
分かってるつもりだったのに。
剛のこと分かってるつもりだったのに。
あたし・・・全然分かってあげてなかったね・・・・。


『アイラブユー。』


この言葉は不器用な剛の、精一杯のあたしへの愛情表現。


あーぁ。
どうしよう。あたしの『ここ』またドキドキしちゃってるよ。ときめいちゃってるよ?

 

剛、責任取ってよね。

 


好きって言葉だけじゃない愛情表現は、ときめきを確認させてくれる。
きっとこれからも、この気持ちは止まらない。好きにならずにいられない・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ------------------------------------------------------

剛くんでした。

当時の「あとがき」なんぞを読んでみたら、このお話は【Can't stop falling love】という曲を聴いて浮かんで書きたくなったお話だという事。日本語タイトルは【好きにならずにいられない】ですもんね。

 

剛くんて、私の印象だとシャイで不器用で無口。ま、話すことは話すけど肝心なことはあんまり言ってくれないのかなって思って。

というか、言いたくてもシャイな性格が邪魔をする・・・のかな?

彼女は苦労しそうだなぁとか、でもそれでも好きが止まらない位に剛くんは魅力的な人なんだろうなって思ったりしてます。

 


 

三日月の船

 

三日月の船

 

 

 

 

 

 

運命の出逢いだって知ってた?俺とおまえだからなんだって・・・・・知ってた?

 

 

 

”カツカツカツカツカツカツカツカツ・・・・・”


あいつが来た。
急ぎ足で駆けて来るのが分かる。


「ごーめん!仕事・・おわんなかったぁ・・・。」

少しだけ切れた息で困った顔をしながら言う。

「はは。いいって。俺もさ実は今来たばっか。」
「・・ほんとに?」
「あぁ、ほんと。」


ほんとはさ、1時間以上も前に着いてたけど。
でもさ、そんなことわざわざ言うことじゃないじゃん?俺だってよくあることだ。
こいつのことしょっちゅう待たせてるしな。

「よかったぁ。」

ぱぁっと満面の笑みを浮かべる。
ははは、単純な奴。でもそこがカワイイとこだったりするんだけどな。

「だけどさ、よくこんな時間にフリーになれたね?」
「うーん、たまにはな。毎日毎日深夜じゃ持たないっしょ。」
「・・・ていうか、仕事減ったわけ?」
「・・ってオイ。そういうリアルな突っ込みはやめろ。ちげぇよ。」
「あはははは。冗談だってば。・・イノ学校もあるもんね。」
「そうだよ。」

相変わらずこいつは、笑顔でキツイ突っ込みをいれやがる。
まるでうちのメンバーの誰かさんみたいじゃねぇか。ま、その『誰かさん』のファンなんだから仕方ないって言えば仕方ねぇか。

 

今日は久しぶりに仕事が早く片付いた。
メンバーみんなで焼き肉行くか?って話にもなったけど、俺はこいつを選んでみた。
まぁ、これまでだいぶ寂しい思いさせてきたからっていうのもあるしさ。
メンバーにはかなり冷やかされたけど・・特にカミセン・・・。
でも、坂本くんも、長野くんも「楽しんでこいよ。」って言ってくれたしさ。
うん、心置きなく楽しむよ。


「ねぇ、イノ?」
「あ?」
「これから・・・何処行くの?」
「うーん・・・とりあえず・・飯でも食うか?」
「あ、うんいいね。食う食う。お腹すいちゃった、私。」
「オッケー、了解。」


俺達は、待ち合わせた海辺の公園から、少し離れたところにあるレストランへと向かうことに
こいつの提案で決めた。
なんだかよくわかんねぇけど、そこ長野くんのお気に入りの店らしい。
・・・つーか、何でおまえが知ってんだ???・・・・・微妙。

 

”カツカツカツカツカツカツカツカツ・・・・”

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

”カツカツカツカツカツカツカツカツ・・・・”


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


つーかさ、これさ・・この音さ・・・・つーかさ・・・・なんかムカツク・・・・・。

 

「なぁ。」
「ん?」
「それ・・・。」
「何?」
「その靴。」
「何?・・・あ、いいでしょ?おニューなんだよねぇ。カワイイ??」
「つーか、うるせぇ。」
「へ?」
「歩くたんびうるせぇんだよ・・それ・・。」
「・・・・・・どういう意味よ?」
「カツカツカツカツ。さ・・・なんだか癇にさわってくる。」
「・・・っ・・な・・。」


あ、怒った。
一瞬にして表情が変わったのが、あんまり敏感じゃない俺にさえ分かった。


「そ・・そういう言い方はないじゃん?!」
「だってそうなんだから仕方ねぇじゃん。俺が厚底嫌いなの知ってんだろ?」
「し、知ってるけど、・・だけど、私は・・私だって好きで履いてるんじゃないんだから!」
「・・・つーかさ、だったら履かなきゃいいじゃん。」
「仕方ないでしょ!!!」
「・・・・・・・そんな怒んなって。」
「怒るようなこと言ったのは誰よっっ!!!」


『癇にさわる。』なんて言ってはみたものの、気持ちは分からないでもない。
こいつの身長は小さい。自称150cmだけど、俺からしてみたらそんなにはねぇだろ。
見た目からして・・・145くらいか?
174cmの俺との差は小さく見積もっても20cm以上もある。
それがどうにもイヤみたいだ。周りの目を気にしてるみたいだ。
俺はそんなのどうでもいいって何度も言ってんのに。まるで聞こうとしねぇしさ。


仕方ねぇな・・・・・。

 

「なぁ。」
「何よっ!」
「おい、ちょっとは落ちつけ。」
「落ちついてるわよっ!」
「・・・・・・・・あ、そ。」
「落ちついてるわよ。」
「だったらいいけどな。」
「いいならいいじゃない。」


口が減らない奴だな、まったく。
ほんと、仕方ねぇ奴・・・・・・・・・・・・・・・。


「なぁ。」
「何よ。」
「あれ見てみろよ。」
「どれよ?」
「あれ。」

俺は夜空に浮かぶ黄色い”三日月”を指差した。

「月?」
「そ。三日月。」
「それがどうしたってのよ。」
「ん?・・あれさ、船だって知ってた?」
「はぁぁ??!」

こいつは俺のことを”バカじゃない?!”ってな顔してみやがった。
失礼な奴だな。

「船なんだよ。ま、言い伝えの中だけでだけどな。」
「言い伝え?」
「そ。昔さ、ある国で有名だった話。」
「へぇ・・・・。」

こいつは俺の言葉に視線を三日月へと移す。俺も同じ方を見ながら続けた。


「そこの国は国民全員が小さくて、ま、小人まではいかねぇけど小さい人の国だったんだ。」
「うん。」
「で、ある日そこの国の姫が、恋をしたんだって。だけど、それがなんと困ったことに・・。」
「何よ?」
「うん。大きな人の国の王子様だったらしい。」
「は?」
「だから、簡単に言うと巨人?ま、決まったように王様達は反対。釣り合わないからって。」
「そりゃ、そうでしょうね。」
「うん。だけど、ふたりは諦めなかった。」
「で?」
「で、ふたりは逃げることにしたんだ。」
「へぇ、駆け落ちってやつだ?」
「そ。だけど、困ったことに国の周りは大きな海。国は島だったんだな。」
「うーん・・・。」
「逃げられない。さぁ、困った。どうする?」
「わかんない。」
「なんと、そこへ三日月の精がやってきた。そして、ふたりのために船を貸してくれた。」
「船?」
「そ。三日月っていう船。」
「だけどさ、三日月って・・・傾いてない?乗れなくない?」
「うん。ところがね、ふたりはどんなだった?おまえ、覚えてる?」
「・・・・・・・小さい国の姫と大きい国の王子。」
「そう。だから全然問題なかったんだ。」
「どういうこと?」
「下に下がった方に姫が、上がった方に王子が乗ったんだ。そしたら・・・?」
「あ!」
「だろ?」
「重い方が下がって丁度よくなるんだ?」
「大正解。」
「で、ふたりは?」
「もちろん逃げられたよ。」
「へぇ・・・・。」


こいつはなんだか幸せそうな顔して三日月を見上げてた。
つーか、俺がこの話をした意図は・・・こいつには分かったんだろうか???


「なぁ。」
「何?」
「もしかしたらさ、俺らってそのふたりの生まれ変わりじゃねぇ?」
「・・・・は?」
「な?そう思わねぇ??」
「・・・・・・・・・・イノ・・・・・・バカ?・・・」


・・・・・・・・。

そうですよ。バカですよ。
つーか、俺がどんなにおまえに気を使ったかわかんねぇのか???
あの”言い伝え”だって・・・あれだってよ・・・俺の作り話なんだからな?!
知ってて俺のことバカにしてんのかよ。だったらいい度胸だよ。・・・・このやろう。

 

「なぁ?」
「うん?」
「だからさ、気にすんな。」
「・・・何を?」
「釣り合わないとか釣り合うとか・・・そういうの。気にすんな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


ま、はっきり言ってそこまで言っても通じたかどうかは、ある意味・・不明。
でも、通じたって、俺の気持ちは通じたって思ってることにしよう。

 


だけどあいつは、そんな俺の期待をよそにさっさと先へと歩いて行ってしまった。
相変わらず足音は”カツカツカツカツ・・・・”
全然通じてねぇじゃん・・・。

 

「ねぇ、イノ!」


あいつが振りかえって俺の名を呼んだ。


「あ?」

「新しい靴買ってくれる?」

「は?」

「こんなんじゃなくって、・・・スニーカーみたいなやつ。」

「へ?」

「だから、イノが履いてるみたいなスニーカー!」

「・・・・・・・・・・・・・・。」


そう言って、あいつは履いてた厚底の靴を脱ぎ始めた。


「・・・っ・・おい!」

駆け寄る俺。

「へへへへ。」

靴を脱ぎながら笑うあいつ。


「何やってんだよ?」
「靴脱いでんの。」
「そんなん見りゃわかるって。何で脱いでんだよ?」
「だって、イノ嫌いなんでしょ?」
「あぁ。」
「こういう靴の足音聞いてると癇にさわるんでしょ?」
「・・・あぁ。」
「だからよ。」
「・・・・・・・・・・・。」


通じたみたいだ。俺の気持ち。
背の高さなんて、釣り合いなんて関係ないんだってこと。
要は気持ちなんだってこと。


「ねぇ、イノ。」
「あ?」
「あの話・・・いいね。」
「・・・・そうか?単なるどっかの言い伝えだぞ?」
「・・・うん。だけど・・いいね。」
「ふぅん・・そっか。」

 

ニコッと笑ってあいつは靴下のまま歩き出した。
おいおい・・・。それはちょっと・・・いくらなんでもやりすぎなんじゃねぇの??

 

俺は小走りに後を追う。

 

「イノ。」

あいつが、隣りに並びかけた俺に何やら笑顔で話しかけてきた。

「あん?」
「結構才能あるね。」
「あ?」
「イノってお話作る才能あるんだね。」


・・・・・はっっ?????い、今何て????


「さっきの話・・・私のために作ったんでしょ?」


・・・・・・・・・バ・・・バレてるぞ。


「イノにしてはやるじゃない。なかなか感動したわよ。」

 


あぁ、バレてないって思ってたのは俺だけか。
やっぱ、世の中そんなに簡単に騙されてくれるやつばっかじゃねぇよな。
特にこいつの場合は尚更だな・・・・・・。

 

だけど・・・・ま、いいか。

 

 

 


運命だからって知ってた?俺とおまえだからだって知ってた?
おまえが小さいのは、俺が大きいからなんだって・・・・・・・・・・・・・・・知ってた?

 


 

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イノッチでした。

このお話の中のイノッチは高校生ですね^^なんだか懐かしいなぁと思ったりしました。

彼女が小さくて厚底を履いてるってのは、当時の職場の同僚さんで150センチ無い方が毎日厚底履いてたのがモデルです。

ちなみに筆者は165センチなので、その昔厚底が流行ってた頃に、履いたら駅で男の人に「デカイ」的なことを後ろで言われてるのを聞いて履くのを辞めました。

 

お話の中でイノッチが語ってる言い伝え。

私が全部考えた妄想です(笑)

 

 

翼在りし者たち【Ⅲ】

 

このお話は、数話続く長編です。

(私が書いたその他の長編に比べると比較的短く中編程度ですが)

公開当時はイノッチのお誕生日記念作でした。

 

そして、今までの恋愛ものとは少し離れて現実には起こり得ないことがメインになったお話です。

イノッチのお誕生日記念だったので主人公はイノッチ。

そのイノッチと関わるキャラクターにカミセン。

でも、カミセンはカミセンだけどカミセンではありません。

(最終的にはメンバー全員登場します。)

 

テーマは「絆」です。

 

興味を持って頂けましたら、幸いです^^

今回は第3話になります。

 

 

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翼在りし者たち【Ⅱ】

 

このお話は、数話続く長編です。

(私が書いたその他の長編に比べると比較的短く中編程度ですが)

公開当時はイノッチのお誕生日記念作でした。

 

そして、今までの恋愛ものとは少し離れて現実には起こり得ないことがメインになったお話です。

イノッチのお誕生日記念だったので主人公はイノッチ。

そのイノッチと関わるキャラクターにカミセン。

でも、カミセンはカミセンだけどカミセンではありません。

(最終的にはメンバー全員登場します。)

 

テーマは「絆」です。

 

興味を持って頂けましたら、幸いです^^

今回は第2話になります。

 

 

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Worst friend

 

Worst friend

 

 

 

 

全く、何で俺はこんなところにおるんや。
軽く傷心旅行でも行こうと思ったけど、行き先なんて見つからんし。
んでもって、乗りこんだ電車がこれやったらさ。
もう、未練タラタラやん・・・・・。


”水戸行きの電車”
俺はその中でひとり座っていた。
車内はガラガラ。誰かにばれることもなく、好きな本だっていくらでも読める。
でも、その行き先が問題で。
”水戸”ってトコが問題でさ。


3日前。
俺はふられた。
しかもこっぴどく。
ていうか、でも、ふられたんかどうかも実のトコはわからん。
あれって告白だったのかさえ、俺にはわからんし。
あえて思い出したくない事実。
はっきり言って悪夢や。


「気持ちは嬉しいけど、あたしダメ。」
「どうして?」
「ん?だって岡田くんてあたしのワースト3にぴったりなタイプなんだもん。」
「は?」
「はっきり言っちゃえば、受けつけないって感じ?」
「・・・・・・・。」
「あたしね、岡田くんみたいに整った顔の人嫌いなの。」
「・・・・・・・・・。」

は?
それってなんやねん。
”整った顔”って誉めておきながら”嫌い”って落とすんか??!

「それにね、あたし痩せてる人も苦手なのよね。」
「・・・・・・・・・・。」
「ね?それって岡田くんに当てはまってるでしょ?2個もビンゴでしょ?」
「・・・・・・・・・。」

それって。
それってはっきり言って偏見だろ。
過去に何があったんだかしらないけどさ。偏見や。
かなりの差別。

「あ、もしかして今差別とかって思ったよね?」
「へっ・・?・・あ、い、いや・・・。」

するどい。

「まぁいいけど。でもね、差別って訳じゃないの。」

じゃ、どう言うわけだよ。

「なんて言うのかな、生理的に受けつけないって感じだから。」
「でもさ、ずっと友達みたくしてたやろ?」
「うん。友達よ。今でもね、もちろん。だけどさ、付き合うのはダメなのよ。」
「・・・・・・・・・・・。」

何だよ、それ。訳わからん。

「だってさ、カッコイイ人って絶対自分に自信あるでしょ?」
「そんなん、ないよ。」
「ううん、ある。それにさ、だから浮気とかもするし。」
「しないよ。」
「するわよ。ナルシストだったりもするし。」
「しないよ。」
「するわよ。」
「しないって。」
「する。岡田くんだって自分で気付いてないだけよ。」
「そんなん、勝手に決めんなよ。」
「だって、そうなんだもん。」
「違うよ。」
「そうよ。」
「・・・・・・・・。」
「でしょ?」
「・・・・・・・・・。」
「納得?」
「・・・・・・・・・・。」
「だからね、ごめんなさい。」

一方的だ。
まるで俺の意見なんて聞く耳もっとらんし。
反論だって出来やしないやん。

「・・・じゃさ、ひとつ聞いてもいい?」
「何?どうぞ?」
「どんな人やったらいいってわけ?」
「う~ん。反対の人かな。岡田くんみたいなタイプの人のね。」
「例えば?」
水戸泉。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

絶句。
予想もしとらん名前出してきた。
水戸泉
それって力士やろ?お相撲さんやろ?
俺にどうしろって言うねん・・・・。


そんなことがあった3日前。

だからなんかな?だから俺”水戸行き”なんか乗ってんのか?
水戸泉』の印象に負けたんか?


気持ちの上では納得なんてしてへんし。
俺の中身より外見で拒否されたんだし。とはいえ、『水戸泉』みたくはなれんし。
全部吹っ切りたいのに”水戸行き”だし・・・・・。
やっぱり未練タラタラやん。

だけど、窓の外はのどかな景色が広がってて、なんだか凄く癒されたりする。
普段の俺の生活からじゃ到底見つけらんない時間。
”傷心旅行”改め”未練旅行”もなかなかええもんかも。

そんなバカみたいなことを考えながら、俺は静かな眠りへと落ちて行った。


数時間後。
「お客さん。」って俺を呼ぶ声と、ポンポンって軽く肩を叩く手に起こされてみると
そこはすでに目的地だった。
水戸泉』の出身地・・・。

なんか微妙な気分やな。

電車を降りながら微かに苦笑い。
と、同時に俺のデコにはでかい荷物らしきもんが「ゴツンッ。」
うげ。
目から火花が飛び散った。
頭割れるやん。バカになるやん。

「あっ、すいません!大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・・・・・。」

いてて。
なんとなくだけどタンコブできてるような気がするんやけど。
これ以上デコが出たら他のメンバーに何言われるか・・・。

てなことを考えながら顔を上げたら
うげ。
驚くべき顔がひとつ。
3日前の悪夢が蘇る・・・・。

「何で?!」

それはこっちのセリフやん。そっちこそ何でおるんや?!

「・・・・そっちこそ。」
「え、だってここはあたしの地元だもん。」
「へ?」
「あたし水戸出身。実家帰ってきたのよ今日。」
「へっ?」

そんなん初耳。

「ていうか、岡田くんこそ何で?」
「お、俺?!・・・・は・・・あ、旅行。」
「旅行?」
「そ、そう。」
「ふぅん。」
「何か文句あんの?」
「別に。ただね、芸能人て海外とか行くって思ってたから意外だって思っただけ。」
「だって1日だし。」
「あ、そうか。それじゃムリだね。」


俺達は並んで駅の外へと出た。
彼女は左方向へ行くみたいだけど・・・俺は・・・。
困った。
どうすりゃいい?

「ねぇ、何処行くの?」
「へ?!」
「行き先よ。旅行の。」
「・・・う・・・んと、か、偕楽園・・?」
偕楽園?」
「そう。」
「へぇ。」
「名所・・やろ?」
「まぁね。・・・でも梅のね。今は時期じゃないけど?」
「べ、別にいいだろ。好き好きやろ?」
「そうね。」
「やろ?」

別に行きたかったわけじゃないけど、知ってるとこが他になかっただけで。
ついな。
口からでまかせ言ってみた。

「ねぇ。」
「ん?」
「ご飯食べた?」
「あ?」
「お腹すいてない?」
「あ。」

そういや、東京出てからなんも食ってへん。
今気付いた。
気付いたら、なんだか妙に腹減ってきたりなんかして。

「うち来る?」
「は?!」
「30分くらい歩くけどさ。」
「は・・・ぁ?」
「よかったらだけどね。」
「はぁ。」
「ご飯くらい出すわよ?」
「う・・ん・・でもさ・・・。」
「何?」
「俺さ、これから・・偕楽園?・・・行くし・・・・・。」
「ふぅん。」
「だからさ。」
「そう。でも言っとくけど偕楽園ってこの駅じゃないわよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」

・・・バレてる。


結局俺は彼女の家へ行くこととなった。

細く伸びる道の両側には畑がずっと広がっていて、東京とは全然違う。
すげぇ、田舎。

「田舎でしょ?」
「へっっ?!」
「なんて声出してんのよ?」
「え?あ、いや・・。」
「図星?」

彼女は意地悪そうな顔でニッと笑った。
俺は痛いトコを突かれて、ただ苦笑いするしかない状況。

「あ、・・・・・それ程でも・・・ないと・・・。」
「別にいいわよ。気なんか使わなくたって。分かってるし。」
「ほんとに。それ程じゃないよ。」
「はは。ありがと。でもこんな田舎だけどあたしは大好きだからさ。」
「・・・・・・・・・・。」

彼女の顔は何処か誇らしげだった。
良く分からんけど、いいなって思った。

3歩くらい先を歩く彼女は、俺より全然大きな重そうな荷物を持ってたけど
でも足取りは軽くて、俺なんかよりずっと元気だったし。
すごいよ。

「なぁ。」
「ん?」
「荷物。」
「何?」
「重くない?」
「あぁ。ちょっとね。でも平気よ全然。」
「持とうか?俺。」
「・・・・・・・・。」
「良かったら持つけど?」
「・・・・・・・・・・・・・。」

急に無言。
何や?訳わからん。返事くらいしろや。

「岡田くん3つ目ビンゴ。」
「は??」
「あたしのワースト3の最後の1個ビンゴしたわよ、今。」
「へ??」
「カッコイイ人。痩せてる人。で2個。」
「・・・・・・・・・・・。」
「で3個目は”女の荷物持ってあげちゃう弱い奴。”。今見事にビンゴした。」
「は?何やそれ。」
「とにかく、あたしは男の人に荷物持ってもらうほど偉くもないし、弱くもないから。」

そう言ったかと思ったら、彼女はどんどん先へと歩いて行った。
俺のことなんか見向きもしないで。

え?え?!え???
そんなん急に言われたってどうしていいかわからへんやん。
それに俺別に弱い奴ってわけじゃないし。言いなりになってるわけじゃないし。
何やそれ。
急に怒って、いきなり「ワースト3にビンゴ」したとか言われたってわからんわ。
つーか、ムカついてきた。
なんかムカツク。
ムカツクわ。
言われっぱなしで。しかも3日も前からずっとやし。
さすがの俺やって腹立つやん。

「なぁ。」
「・・・・・・・・・・。」
「ちょっと待ってよ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「話くらい聞いてよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」

つーか、そっちがその気ならこっちだって考えがあるし。
堪忍袋の尾が切れるって。

「勝手に決めんな!」

ビクッとして彼女は止まった。
その背中に向かって、俺は思ってたことを全部ぶちまけた。
ま、背中ってトコは微妙やけど・・・・。

「俺は弱い奴やない。」
「・・・・・・・・・・・。」
「それにナルシストでも自信家でもない。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「浮気だってしたことないし、するつもりだってない。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「何で女の子の荷物持つ奴が弱い奴?ただ重そうだから手伝うだけやろ?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「男の方が力あるし、助けてやりたいって思うのは普通のことやろ?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「それのどこが弱いんだよ。」

彼女はピクリともしないで只突っ立ってた。
俺の言ったことが心に染みたのか、それとも怒ってるんかわかんないけど。
でも俺はこれでいいって思ってる。
だって言わなきゃいけないときは言わないとやろ。男なら尚更。

「・・・・・・・・ん・・。」
「え?」
「・・・・めん・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・ごめ・・ん。」

消え入りそうな声が聞こえてきた。
それは確かに「ごめん。」って言ってて、こんなときに不謹慎だけど
俺は思わず彼女を後ろから抱きしめたい衝動に駆られた。
情けない・・・。

「もういいよ。俺も言い過ぎたから。」
「・・・ん。」

やっぱ女の子。
いくら気が強いっていったって、こんな風にホントはもろいんやな。
俺が守ってやらなくちゃ、やっぱダメかもな。

なんて思いながら近づいて行った俺へと、彼女は開口一番。

「でもさ、自分の荷物は自分で持つし。」

あ、そうですか・・・。
やっぱ気のせいみたいです。もろいなんて考え違いみたいでした。

弱いな俺。
違う意味でだけど弱い。
俺、彼女に弱い・・・。はぁ。

 

彼女の家は畑のすぐ隣りにあった。
昔ながらの農家って感じで、庭も広くて大きな家だった。

「ただいま。」
「こんにちは。」
「あらぁ。こんな素敵な子連れてくるんだったら、もっと早く言ってくれればぁ。」

で、彼女のお母さんはやっぱり典型的な農家のお嫁さんって感じで。
明るくて、”かかぁ殿下”って言葉がぴったり。

「いいのよ、母さん。そんなんじゃないし。偶然会ったのよ駅で。」
「あら、そうなの?」
「あ、はい・・・。」

つれない紹介。
ま、仕方ないか。”ワースト3ビンゴ男”やしな。

「あ、それと彼ね、手伝ってくれるらしいから。だから代わりにご飯出してくれる?」
「あらあら。そうなの?悪いわねぇ。ご飯くらいお安いご用よ。」
「すいません。」

いいな。なんか温かいおかんで。
ていうか、手伝うって何や?何を手伝うって・・・・・?
聞いとらん。

 

お昼ご飯はお結びとたくあんだった。
でも、そんな素朴な食事でさえも、こんなにのどかな景色の中だと不思議と
メチャメチャ美味くて。
いつもはたいして食わない俺なのに、今日は3つも食ってしまった。

「ごちそうさまでした。」
「おそまつさまです。」

彼女のおかんはやさしい笑顔だ。
そういえば、おかん元気かな。この頃帰ってへんな・・・・・・・・。

「ごちそうさま。」

彼女はそう言うなり立ちあがり、そそくさと何やら準備にとりかかってる。

「何してるん?」
「ん?支度。」
「何の?」
「芋掘り。」
「芋掘り?」
「そ。さつまいも。」

あ、そういや何か言ってたな。
「手伝う」とかなんとか、かんとか・・・・・。

「掘りに行くん?」
「そうよ。なんなら一緒に行く?」
「へ?」
「冗談よ。芋掘りするアイドルなんかいるはずないもんね。」
「・・・・・・・・・・。」
「あたし行くからさ、ゆっくりしてって。」
「・・・・・・・・・。」


彼女は整った道具一式をトラックの荷台へと積んで準備を続けていた。

俺何しに来たんやろ?
ふられた彼女の実家にまで来て、昼飯食って、くつろいで。
これじゃ、ただのアホやん。

「なぁ!」

彼女は俺の呼ぶ声に振りかえる。

「何?」
「俺も連れてってくれへん?」
「・・・・は?」
「邪魔せぇへんから連れてってよ。」
「・・・・・・・・・・。」
「一応さ、男だし力になれるよ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「あ、芋持つんやなくって、掘る方のね。」
「・・・・・・・・・・・。」

無言。
返事すらしないで彼女は運転席に乗りこんでエンジンをかけた。
どうやらシカトされたらしい。
結局のところいつまでも、何を言っても俺は”ワースト3ビンゴ男”のままらしい。
はぁ。
でもさ、シカトすることないやろ。

「乗って。」

突然窓が開いて彼女の声が響く。

「早く乗って。行くんでしょ?」
「あ、あぁ。」
「でもさ、言っとくけどメチャメチャこき使うわよ。男なんだもんね?」
「・・・・・・・・・・はは。」

相変わらずに相変わらずな口調。
だけど少しは受け入れてくれてんのかな?
別に今すぐ認めてもらおうとは思ってへんけど、ワースト3が2とか1に減ったら・・・
とか微かな期待はしてたりして。
それも・・…・ムリか?
ま、とりあえず頑張りますか。

 

でもそれは俺の想像してた芋掘りなんてもんとは雲泥の差だった。

俺は3時間半も中腰のまま掘りつづけ、途中足はつるし・・・。
最終的に俺らが掘った芋達は軽トラックの荷台にいっぱいになって
積みきれなくなるんじゃないかってくらいだった。

明日の朝の俺は、かなりの地獄だろう。
体中がギシギシいっとるやろな。
”男”なんて意気込んだ俺がやばかった。大間違いだった。
いててて。
ダサい。

「大丈夫?」
「へ?あー全然余裕。」
「ほんとに?」
「当たり前やん。いつも踊ってるし俺。」
「そっか。そうだね。」
「ん、はははは・・・。」

はぁ。
踊ってるとは言え、使ってる筋肉は別もん。きっと。
いや、確実に。

「あたしさ、初めて見た。」
「何が?」
「長靴。」
「は?」
「岡田くんの長靴姿。履かないかと思ってたから。」
「あ?履くやろ芋掘るなら普通。」
「そうだね。それにさ、そんな頭も。」
「あ?どんな?」
「ボサボサ。」
「ん~?いつもだけど?」
「うそ。」
「いつもだよ。裏では・・ていうかテレビ出てないときは。汚い。」
「ふぅん・・。」
「何?」
「ん?ちょっとね、見なおした。」
「え?」
「ん。こんな頑張るって思ってなかったから。」
「・・・・・・・・・。」

神様はご褒美をくれた。
着てるもんも顔も真っ黒にして頑張った俺に。
誉められた。
たぶん初めて。出会ってから1年以上経つけど、たぶん初めてだ。
妙に弾んでるわ、俺。
この体力とは裏腹にな・・・・・。

 

夕暮れ時の彼女の家の庭で、お母さんは焼き芋をつくってくれた。
アツアツホクホクの美味い芋を、景色のせいなのか空気のせいなのか
またしても2本も食ってしまった。
そんな俺を彼女は横目で「大丈夫?!」てな顔してみとったけど。
気にしない。気にしない。

そんで、2本も食った俺に、お母さんは袋いっぱいにおみやげの芋まで持たせてくれた。
もちろん彼女も。

帰りは大きな袋いっぱいの芋と一緒に電車に揺られることになったんだ。


「今日は何から何までありがとな。」

窓から差し込む夕日が眩しい電車の中で、俺は隣りの彼女に声をかける。

「うん?別に。こっちもこき使ったし。」
「芋掘り楽しかったよ。」
「うそ~?!」
「何やそれ、信じてよ。」
「ま、程ほどにね。」
「・・・・・・・・。」
「岡田くん?」
「・・・・・・・・・。」
「感謝してるよ?少しは信じてるよ?」
「・・・・・・・・・・。」
「怒った?」
「・・・・・・へこんだ。」
「ははははは。」
「何笑ってんだよ。」
「だって。」
「笑うなよ。」
「だってさ、今すんごい変な顔してたんだもん。」
「は?!」
「初めて見た。あんな顔。」
「・・・・・・・・・・。」
「あ、また。」
「・・・・・・・・・・・。」
「かっこわる。」
「・・・・・・・・・・。」
「あははははは。」

そんな顔して笑うなって。
なんか思い出すんだよ、胸の痛みをさ。
俺、笑ってる顔が一番好きだったんだからさ。・・つーか今も好きだけど・・・。
「かっこわる。」って爆笑すんなよ。
ある意味失礼だ。

って「かっこわる。」・・・?
「かっこわる。」って言った???
「かっこわる。」って格好悪いってことやんな?
つまりはカッコイイってことの反対やんな?

「なぁ。」
「ん?」
「ワースト3のうち1個減ったな?」
「え?」
「かっこわる。って笑ってた。」
「あ。」
「てことは、俺は”カッコイイ人”ってことには当てはまんないよね?」
「・・・・・・・・・。」
「そうだよね?」
「・・・さぁ、知らない。」

とぼけるように返事して、彼女は窓の外を眺めてる。
ま、いいや。
とりあえず、どうにかこうにか1個は減ったみたいだし。
3個減るのはムリかもだけど、気長に構えてみるか。いつかは無くなるさって。
って俺、傷心旅行に出たんやった。途中で未練旅行になったけど。
何張り切ってるんだ??
この先も行くぞ!!みたいな気合をいれてたような気がする・・・今さっき。
う・・・相変わらず未練タラタラ。


ん?!

いきなり右肩が重くなった。

わ。

彼女がもたれて寝てた。

うーん、複雑。
嬉しいような虚しいような。でもなんか嬉しいような。
悪い気はしないのは確か。

つーかさ、あんな強気なくせして寝顔はかわいい。
疲れたんやろな。
重いけど、俺もつかれてるけど、でもこんなことは2度と無いかもしれないから
寝かせてあげよう。
肩貸してあげよう。


俺達の足元には大きな袋が2つならんでる。
そんで、俺の肩には彼女がもたれて寝息を立ててる。


なぁ。
やっぱ俺、未練タラタラだわ。
しかも今日もっと好きんなったし。
だからさ。
俺もう1回ぶつかるわ。
東京帰ったら、もう1回告白することにするわ。

覚悟しといてな。

今度は頼むからフラんといてな。

 

俺も静かに目を閉じた。

 


 

 

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岡田くんでした。

このお話、当時のあとがきを見れば岡田くんの24歳のお誕生日記念で書いたようですね~。2004年。約10年前か~。

まだこの頃は関西弁交じりの話し方をしてたのでこんな口調です。今はほとんど出て来ないですもんね、関西弁。時々単語のアクセントの位置が標準語と違うくらいで。私、岡田くんの関西弁好きだったので残念なんですよね。

当時は既に寡黙でカッコイイ岡田くんだったんですが、あえてブサイクにしてしまったのには理由があって、デビューから数年の可愛らしくて素朴で、元気いっぱいだった岡田くんが恋しくなったからなんですよね。そして、モテモテで振られることなんてないであろう岡田くんが、泥臭く好きな子を追いかける姿を書きたかったのですよ。すんません^^;

ちなみに、「水戸泉」さんは実際の人気力士さんでした。お塩いっぱいまく大きくて太めのね^^